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ウサギはBarに                    行けないちん。                         うんうん、                 行けないちんなぁ。


by anzou_s
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香水―ある人殺しの物語

「舞台は18世紀のフランス。
町は汚穢(おわい)にまみれ、至るところに悪臭が立ちこめていた。
そこに、まったく体臭のない男がいた。
男にないのは体臭だけでない。恐ろしく鋭い嗅覚と、
においへの異様なまでの執着以外に、男には何もなかった。」

主人公はジャン・パテスト・グルヌイユ。
市場で魚をさばいていた妊婦がその生臭い仕事場で
グルヌイユを産み落とす。
そのような場所で産み落とされた赤ん坊は全くの無臭だった。
あかちゃんの暖かい髪の香り,
手や顔の肌のキャラメルミルクのような香り
そんなものが一切なく,代わりにその赤ん坊には
類稀な,何でも嗅ぎ分けられる嗅覚を持っている。

なんとものっけから生々しい描写のこの小説。
香水についての物語というよりも,
この世のあらゆるものの「匂い」について語られている。

手すりの鉄の匂い,
何キロも先の街から流れてくる人間の体臭。
真っ暗の,なにも見えない部屋でも嗅覚を頼りに歩く。

そしておそろしいまでの生命力の強さ。

様々なチャンスをものにし,
香水調香師として名をあげ,香水の香りだけではあきたらず
自分の体臭を意のままに創造し,
最後には美しい少女を何人も殺しては,
その少女たちの香りを手にする。

ワインセラーに並ぶワインコレクションのように
時に一人でその少女たちの香りの小瓶を取り出しては
香りの遊びに耽るグルヌイユ。

本を読んでいるはずなのに何故か私は
色々な香りを頭の中で模索していた。

花粉症の時モノをたべても美味しく感じられない。
そういう人がいる。
私は花粉症だったり鼻炎もちではないので良く分からないが,
匂いというのは息をしているときに何気なく体で感じているものだが,

「香りを嗅ごう」と思っているときや
鼻を突く悪臭だったり,おいしそうな香りだったり,
そういったものがないかぎりはあまり機能していないように思っていた。
この小説を読んで,この世に存在するどんなものにも
例え空気にも水にも。
名前すらないような物質や草木にでも。
なにかしらの「匂い」はあるのである。
そんな事に気づかされた。

それらが複合して匂いは,そのときの目で見た記憶や
ココロで感じた記憶と一緒に封じ込められる。

ヒトの手によって作られた香りによりも,
自然に調合された香りにもう少し目を向けてみようと思う。

いい季節だし,外へ出よう。
そしてBarへ行こう。
カウンターの木の香り,スコッチの香り,
シガーの残り香,カクテルのフレッシュフルーツの香り・・・。
何十年も営業してきて年季の入ったBarの香り。

Barの楽しみ方がまたひとつ,この本によって増えたような気がした。

著者:パトリック・ジュースキント
by anzou_s | 2004-09-24 19:39 | 好きなもの