ウサギはBarに                    行けないちん。                         うんうん、                 行けないちんなぁ。


by anzou_s
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Samboa Bar

大阪最初の夜はここから始まった。
ここに立ち寄らなかったら,沢山のいいBarへは
辿り着けなかったと思う。

しかし,なんて酒場を最初に選んでしまったんだろう。

お初天神近くで同僚たちと軽く飲んだ後,
私は一人で夜の街をフラフラ歩き出す。
時間は9時をまわった頃だったろうか,
酔客で賑わう街がやけに眩しい。
東京の街でいえばここはどれに当てはまるか。
いや,こんな場所はないだろう。

あらかじめ行きたいBarのめぼしはつけていた。
しかし持参した地図がかなり昔のものだった為に
目印になる店などがもうすっかり跡形もない。
地図には頼れない。
初めて歩く街に土地鑑もない。

途方にくれて,立ち止まってはまた歩き出す。
そんなことを30分は繰り返しただろうか,
あてもなく歩いた路地に,
まるで昭和の初めか,いや大正時代かと見紛う店構え。
最初に見つけた店が悪かった(いや,良かった)!

「Samboa」というBarは知っていた。
本で読んでいた通りの味のある店構え,由緒正しそうなBar。
こんなイチゲンの若造が入っていって良いものか。
気後れして店の前を一度通過したあと,
また立ち戻り,「どうにでもなれ」とドアを押した。

店内は油性ワックスの香りが漂い,
床も壁もカウンターも磨きこまれてテカテカに光っていた。
カウンターに椅子はない。
そのせいか,カウンターの後ろのテーブルは
椅子がテーブルと向き合っていない。
カウンター側へ向けられているのだ。

洒落たバックバーに,きちんとプレスされたバーコートの
バーテンダーが二人。仏頂面をしていた(のように見えた)

店の一番隅のテーブルには,老人客が体をねじるようにして
テーブルで本を読み,酒を飲んでいた。

カウンターの奥には白い髭をたっぷりとたくわえた
恰幅の良い老人が一人。

私はとんでもないところに一人で来てしまった。
おきまりの音楽はない。
空調の音がむなしく鳴る。
テーブルの老人は無言で靴を鳴らし,
ハイボールのおかわりを頼む。

私はジン・バックで歩き疲れた喉を癒しながらも
緊張のあまり,どんな味だったかもさっぱり分からなかった。
ただ冷たいものを喉に流し込んでるといった状態だ。

店内は静かに時間が流れた。
磨きこまれた真鍮のバーに肘をかけながら,
やっとの思いで立っていた。

私がやっとこの店内に落ち着いていられるようになった頃,
カウンターの髭老人はもういなかった。
テーブルの老人がおもむろに,話し始める。

「このグラス。このグラスをわしは前のオーナー,アンタのジイさんに
半ダース貰ったんだ。わしのイニシアルを入れてくれてな。
しかし,もう割れたりだのなんだのでもう今は一個も残ってないんや。」

バーテンダーは「そうですか」とだけ言った。
大先輩の話をありがたく頂戴するかのような神妙な顔つきでもあっただろうか。

老人の話は,こういう酒場での飲み方,マナーをとくとくと説き
いかに"アンタのジイさん"が偉大な人物であったかを説いた。
そして息子と呼ばれたバーテンダーに激励の言葉を送って帰っていった。

私は静かに聞き入っていた。
ギムレットのグラスが空になるとお会計を済ませ,
無表情なバーテンダーに尋ねた。
「樽,というBarまで行きたいのですが。」
あらかじめ調べていたBarの思い浮かんだのをとっさに口にしただけだった。

すると意外にもとても親切におしえてくださった。

「確か,樽さんは・・・数ヶ月前に店をおやめになられていたような気がします。
あ・・・でもちょっと電話をして聞いてみましょう。」

私は受け取った釣りを無造作にかばんのポケットにねじこみ,
帰り支度をしてその電話を待った。

どうやら店はしめていなく,移転しただけとの事。
簡単に書かれた地図のメモを書いてもらい,
お礼を言って店を出た。

こんなに緊張して飲んだのは,久しぶりだった。
しかしいい勉強になった。

このようなBarで堂々と飲めるようになるにはあとどれくらい
時間が必要か。経験が必要か。
いつかまた必ず立ち寄りたいと思う。

さあ,次の店へ行こう。夜は長い。
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by anzou_s | 2004-09-04 19:16 | My favorite Bar